この空の彼方

木の陰で少し休むと、灯世が口を開いた。



まだ、声は苦しそうだった。



「蛇儒に、なにをされたんですか?」



まだ心配だったらしい。



芦多は首を横に振った。



「何も。
ただ、名を訊かれただけだ。」


「本当に?」


「ああ。」



ようやく安心したように、灯世は笑った。



「よかった…。」


「…灯世こそ。
どうしてあの場所がわかった?」


「奇妙な鳥が、きっと蛇儒の使い魔だったんだと思いますが、空を旋回していたので、追いかけたんです。
そうしたら、どんどん先へ行ってしまって。
後をついていくと、芦多様達が見えて。」



心臓が止まるかと思いました、という灯世の顔はなるほど、蒼白だった。



「気を付けてくださいね、相手は術者ですからね。」



言われなくともそうする。



あの男、危険だ。



それより、



「灯世はあいつを知っているのか?」



灯世は困った顔で首を振った。



「心当たりはない、か。」



うなだれる灯世。



芦多は灯世の腕を引いて立ち上がらせた。



「歩きながら話そう。」


「はい。」



芦多は灯世の隣を歩きながら、油断なく辺りや空をも窺う。



使い魔の話を聞いた今は空までもが恐怖だ。



「会ったことないはず…。」



一人、灯世が呟く。



芦多は邪魔をしないよう、黙って隣を歩いた。



ただ、灯世が木に正面衝突しそうなときはさすがに手を出したが。