灯世は無意識に中庭に向かった。



夕方の気温はまだ少し低く、灯世の頬を冷たくした。



私、否、私達はどうなってしまうんだろう。



このままここで息絶えるまで籠の鳥なんだろうか。



夕焼け空はいつもと変わらない。


芦多が型だと知った今、灯世はこれ以上この屋敷にいたくはない。



運命など信じない。



自分で切り開いてみせる。



灯世は拳を固く握った。



「灯世。」



後ろから声がかかった。



「……芦多様はいつも私が貴方を必要とするときに決まって現れますね。」


「灯世はいつもそういうとき、心の中で私を呼ぶ。」



言って、芦多は後ろから灯世を抱いた。



肩に回った手に、灯世は甘えた。


「何かあったか?」



少し考え、いいえ、と首を振る。


今はまだ知らないふりをしておこう。



「背中が寂しげだったぞ?」


「芦多様に会いたかったんです。」


「さっき会ったばかりだろう。」



呆れて、芦多は笑う。



そうだけど。



私は片時も貴方と離れていたくはない。



「辰之助様が灯世を探していた。」


「本当に?」


「ああ。
不安そうに呼んでいた。
帰ったほうがいい。」



灯世はこくんと頷いた。



また夢のような時間が終わる。



芦多の腕が解かれた。



行け、と再び背中を押される。



灯世は振り返り振り返り、部屋に向かった。