「あ、あの、芦多さん?
ご自分が何を言っているかわかっていますか?」


「はい。
事の重大さは重々承知しています。」


「いいえ、わかってませんよ。」



八重はすぐにいつもの威厳を取り戻した。



「一生逃げ続けるということになるんですよ?
それに、お仕事はどうするつもりですか?」



一段と厳しい目が芦多を射抜く。



芦多がぐっと唇を噛むのが見えた。



「それに、灯世。」



灯世はびくりと八重に視線を戻した。



「あなた、守護者の仕事を投げ出すつもりですか?」


「それは…。」


「母様の手伝いをしたいと言ったのはどの口ですか。」



灯世はうなだれた。



「したいと思っていましたし、実際しました。」


「少しでしょう。
それに何より、辰之助様はどうするつもりなの。」



灯世はキッと八重を睨んだ。



「私は、あの人が憎い。
これ以上一緒にいたくないの。」



八重は驚いて灯世を見た。



「憎い?
どうしてそこまで…。」


「母様はいなかったから知らないと思うけど。」



灯世は今までのことを全て八重に話した。



初めてこの屋敷に来て芦多を見たときのこと、互いに惹かれあっていたこと、辰之助が二人を裂いたこと。



八重は黙って沈痛な面持ちで聞いていた。