妖の住まう土地、遠野。

昼なお暗いその山の奥深く、到底人の踏み入れることの無い場所にそれはあった。

朱に塗られた鳥居の回廊。
続く先には漆黒の闇に閉ざされた洞窟…。

その中は世界から音が消えたのかと思うくらいの静寂…。
耳を澄ませばわずかに聞こえる鍾乳石からの雫の音。

その洞窟をしっかりとした足取りで男が歩いていた。

手には生まれて間もない赤子が1人、白い布に包まれたまま静かな寝息を立てていた。

…男は開けた場所に来るとその足取りを止め、低く大きな声をあげた。

「僧正殿!おられるか!神楽玄奘(かぐらげんじょう)が嫡子、神楽透を連れて参った!時が迫っておる!いざ、生誕の儀を行わん!」