「…私は、この教会で…ヴァージンロードを歩けなかった…琉汰の元に…辿り着くことが出来なかった…その私が、琉汰に指輪を貰う事はできないよ……」


「……辿り着くことが出来なかったが……この指輪は……お前の物だ…千冬!」

俺は、千冬の手のひらに指輪を握らせた。

「……琉……」

千冬の綺麗な眼から流れる涙に、俺は口づけをした。



「…いい匂い…」

千冬は、公園のベンチに座り言った。

「匂い?…」

「うん」

俺は、鼻から息を吸い込んだ。

「…何にも匂わないけど?…どんな匂いだ?」

「やっぱりね!」

千冬はクスッと笑った。

「何だよ?何の匂いだよ!?」

「丘公園の近くにね、薔薇が咲いてるのよ!…知ってた?」

「薔薇?…」

「そう、風がベイブリッジの方向から吹くと、薔薇の香りが風と一緒に流れてくるの…」

千冬は、幸せそうな顔をしていった。

「知らなかった」

【…何年も一緒に居たのに千冬が、感じていた事を今さら分かるなんて……ごめんな…】


「悲しい顔してる!」

「えっ!?」

千冬は、俺の方を見て言った。

「……笑って」

千冬は、微笑んで言った。