「私は、田代吟子という」
「俺は、……宮本一樹」
「知っている。だから呼んだ」
もっともな話だった。
けれども一樹は、考え無しに名乗った事よりも、自分で自分の姓を忘れかけていたことに、少々驚いていた。
「一樹……か。
なかなか似合っている名前じゃないか」
吟子は、妙に冷めたような言い方をした。
「そうかな……」
「私なんて、吟子だぞ? 吟子だ。
こんなに、不愉快な名前なんだぞ。
詩吟やってるばあさんじゃあるまいし……」
彼女は車椅子に肘を突いて、はあっと溜め息を吐いた。
……心底、名前が気に食わないという様子だ。
ただ吟子の若者らしからぬ喋り方は、名前にぴったりな気もしたが、黙っている事にした。
確かに、『ギンコ』とは彼女の派手な外見に似合わない、古臭くて平凡な名前な気もする。
けどCPGの名前なんて所詮、後から誰かに与えられた記号に過ぎない。
一号、二号と呼ばれているのと同じだ。



