更にイケハタは、

「もしも万が一、とてもひどい状態になったら、追い詰められる前にカウンセリングを受て下さい」

と言って、連絡先をいくつか書いたメモをくれた。

夫はそのメモもきちんと受け取って、大事にしまってくれた。








「良かったね、アイハラ。

あの旦那さんなら、大丈夫だよ」





イケハタは今でも、あのときを思い出しては、そう言う。

私もそう思う。

照哉さんに出会えて良かった。



あの頃に較べると、今の私は落ち着いている。

深夜の物音に、過剰に驚くこともない。

でも、ときどき不安になる。

ある日突然、私はまた、夫を激しく拒絶するかもしれない。

急に気分が塞いで、誰とも話ができずに、部屋に閉じこもってしまうかもしれない。

だって私の頭や心の奥底には、おぞましい過去の記憶が今も澱んでいるのだから。




でも、大丈夫。

照哉さんは、決して私を見捨てたりしない。

それだけは信じられる。


照哉さんに会えて、良かった。


  *   *   *