道中地蔵

私達は肝だめしに行かなかった。

しかし充分過ぎほどの恐怖を体験した。

顧問は病院に行き、私達は副顧問が来るまで、病院に行った部員達の荷物を片付けていた。

みな暗い面持ちで、病院に行った部員達への恨みごとを呟いていた。

帰っても、この部活は以前のようには戻らないだろう。

荷物を玄関前に置き、副顧問を待っている時間、私はお地蔵さんに別れを告げに来た。

宿泊場から借りたバケツに水とスポンジを入れ、ミネラルウォーターのペットボトルと饅頭をバックに入れて行った。

お地蔵さんの裏に回り、大岩のところに来た。   

昼間でも雑木林の中は薄暗く、大岩の存在を不気味にしていた。

ここに昨夜の武者達が眠っているのか。

ふと視線をそらすと、そこには刻まれたばかりのキズ跡が…。

私は無言で、スポンジで擦りはじめた。

これで全て消えるとは思えないけれど、時間の許す限り拭いた。

心の中でたくさん謝りながら。

やがて副顧問から電話がきて、私は作業をやめた。

…やっぱりキレイには消えない。

薄くはなったけど、触れば感触がある。

ため息がでてしまう。

最後にお地蔵さんに新しい水とお饅頭を供えた。

精一杯謝罪をこめて、手を合わせた。