『どうぞ』
衣緒李が羽山と呼んだ30代後輩くらいの男性が,どうやら運転してくれるらしい。
にしても…
なんだこの高級車は…?!
『羽山さ―ん,もうちょっと普通な車なかったのー?』
衣緒李が拗ねたように言う。
『これが1番,普通だったんですよ』
『やっぱタクシーにすべきだったかなぁ』
『あっ,あのさ…』
2人の会話に俺が口を挟む。
『ん?何?』
『衣緒李の家って,もしかして…金持ち?』
『ご存知ないんですか?』
衣緒李ではなく羽山さんが答える。
『本人から何も聞いていなくて…』
俺は咄嗟に言い訳する。
『ナベホームという会社はご存知ですよね』
『えぇ,それはまぁ』
ナベホームと言えば,日本で1,2を争う住宅会社だ。
……まさか。
『ナベホームは,衣緒李お嬢様のお父様の会社なんですよ』
『えぇぇっ?!』
横で衣緒李がクスクス笑っている。
『弘樹ってば,そんな驚かなくても』
『いや驚くよ!何で言ってくれなかったの』
『ん?まぁ,いいかなって』
…やばい。
不安になってきたぞ…
『越智さん…でしたっけ。お嬢様は旦那様の大切な末娘ですので,御覚悟を』
『えっ…』
『冗談です』
は,羽山さん…
こんなときに冗談なんて…
固そうな顔からは
想像つかないキャラだ。
『そんな緊張しなくて大丈夫♪うちのパパは怖くないよ』
そう言われても…
緊張するだろ…!!
足が少し 震えてきた。


