ピッチャーも精神的に来ているはず。
そんなことを考えながら、一球目は見逃した。
ど真ん中、ストライク。
ピッチャーの顔は凄く楽しそうで、この状況を楽しんでいるように見えた。
それなら俺は、一泡ふかせてやるまでだ。
二球目は思いっきり振る。
ストライク。
俺のバットは空をきった。
俺は動じなかったし、焦らなかった。
ピッチャーが振りかぶる。
俺は迷わず、バットを振りきった。
快音。
手に残る確かな感触。
それと、大歓声。
サヨナラ、だ。
膝から崩れ落ちるピッチャーを横目に、
俺は握りこぶしを高々とあげながら
ダイヤモンドをゆっくりとまわった。
達樹、俺、やったよ。
衣緒李、見てるか?
何か感じてるか?
俺、お前の為に打ったんだよ。
お前の為に頑張ったんだよ。
勝ったよ…
覚えてないかもしれないけどさ、
これがお前の愛した男の姿なんだよ?
一生ついていこうとしてたんだよ?
一緒に幸せになるはずだったよな?
…頼むから、思い出してくれよ。
俺、そろそろ限界だよ…?
そんなことを考えていたら、もうホームベースを踏んでいた。
いつのまにか、涙が流れていた。
皆には、試合に勝った嬉し泣きだと
思われていただろう。


