「やっぱり、マリアちゃんは笑っている方が可愛いわ」

絵里子に言われ、マリアは自分が笑っているのだと気が付いた。

「やっぱり女の子はこうでなきゃね、あなた」

絵里子から急に話を降られ、座って今日の夕飯である、ミートソーススパゲティにフォークを入れようとした瞬間を狙ったかのように高沢に問いかけた絵里子をマリアはすごいと思ってしまった。

「まぁ、男はとか女はとかとやかく言うつもりはねぇけど、俺もマリアは笑っていた方がいいと思うぞ。……いただきます」

「やっぱりそうよね。よかった、私だけじゃなくて。……召し上がれ」

ほらみなさい、と疑わしげに見つめていたマリアに自信満々で告げる絵里子をみるとなんだかどうでもよくなってしまい、

「そうですか。わかりました」

と、正直に絵里子に従うことにした。

「ほら、マリアちゃんも早く座って、食べて。あなたなんて、勝手に食べようとしてたのよ」

ジーッと夫である高沢を意味あり気に見つめており、高沢はとても居心地が悪そうだった。
外見を見れば明らかに高沢の方が怖く、逆らうことはできない雰囲気をもっている。事実、西高では伝説の人物であるから、当然といえば当然なのかもしれない。

しかし、絵里子はその雰囲気を払拭してしまうくらい、温かい空気を身にまとう人だった。

この異色の夫婦に、当初阿久津から、高沢が結婚していると伝えられ驚き、その相手が喫茶店で一緒に働いていた絵里子さんだと伝えられさらに驚き、しかも、結婚してもう10年以上経過していると言われた時には驚愕を通り越し、呆然としたことを思い出した。