黒猫前奏曲

「マリア、大丈夫か?」

客が少ないため、暇ができたのか、高沢がマリアの前に座り、下からのぞき込むように見つめていた。

「うん。少しボーっとしてた」

マリアは弱々しく微笑む。しかし、高沢はその表情を見て余計に不安になった。

「マリア、今日はもう帰れ」

高沢はマリアが可笑しいと判断し、頭を撫でながら諭すように言う。

「遠慮します。ねぇ、高沢さん?」

マリアが自分の名字をまともに呼ぶ時は、決していいことがないことを高沢は知っていた。

「なんだ?」

「……まだここにいたい」

しばらくの沈黙の後、絞り出すように声を出しすマリア。高沢はその縋るような声に、マリアを抱きしめていた。

「大丈夫だ。俺がいる」

脆く壊れそうなマリアを愛おしむように優しく抱きしめる。

「俺だけじゃない。阿久津や寺井もいる。だから、そんなにため込むな」

マリアの背中をポンポンと優しく叩く。

「お前は我慢しすぎだ。泣きたいときに泣けなくなるぐらいにな」

高沢の言葉にマリアは何も反応を見せない。

「今日、親は?」

「……出張」

小さく呟いたマリアに、高沢は笑う。

「そうか。なら、泊まっていけ。絵里子も喜ぶ」

その言葉にマリアは小さく首を縦に振った。

「絵里子さん、元気?」

「あぁ、家で大人しくしてて暇らしい」

マリアをゆっくり離し、その手を頭にのせるとポリポリと頭をかいた。

「ボスも絵里子さんにはタジタジだね。かかあ天下か」

口角を少しあげて、マリアが言う。