黒猫前奏曲

「さてと、お仕事再開させましょうか、ボス」

くるりと振り向き、高沢に振り向くと同時に、

―カラン

と軽快な音と共に、お客が顔を出した。

「いらっしゃいませ」

マリアは、猫かぶりのお得意の笑顔をひとつ見せる。

おしぼりとお冷やを持ち、客を接待する姿はどうみても、いつものマリアだ。
高沢はマリアの姿に安堵し、キッチンへと戻った。

「注文なんだった?」

戻ってきたマリアに阿久津は尋ねた。

「はい。ホットケーキセットで、ドリンクはコーヒーホットです」

「じゃあ、それは俺が運ぶよ。あまり手に負担かけさせたくないし」

阿久津は手首を指差しながら笑い、マリアから伝票を受け取るとボスに伝えに奥に入っていった。

やることを持て余してしまったマリアは、客側からは見えない場所にある椅子に座ると、小さな溜め息を吐いた。

しばらくすると、ホットケーキにかける甘いメープルシロップとそれを引き締めるかのごとく深い黒の香ばしいコーヒーの匂いが、鼻をくすぐった。