「人生を楽しくする秘訣ですか?」

「そうだね。必殺技みたいな感じかな」

必殺技はどうかと思うが、私はこのお爺さんを尊敬する高沢の気持ちがなんとなくわかった。

ろうそくのように、仄かな明かりを灯し、それを周りに分散しているような人だと思った。兎と亀なら間違いなく亀タイプの人間で、あの童話の亀は兎と競争するために必死で走っていたのかもしれないが、このお爺さんなら、散歩感覚で四季折々を楽しみながら、ゆっくりと歩き、先にゴールしそうだ。

その後、高沢もやってきて、このお爺さんの名前が中山であることや近くの大学で心理学の教授であることを教えてくれた。

ここから、喫茶店『キャッツ』でのバイト生活が始まった。
不思議なことに、ここでバイトを始めてから、下校時に絡まれることが極端に減った。また、絡まれたとしても、バイト先を告げると一目散に逃げていってしまった。

このことに高沢が絡んでいたのを知るのは、ずっと後のことだった。