「マリア、悪かったな」

頭をポリポリかきながら謝る高沢の姿に、なんだか私の方が申し訳ない気持ちになってしまうのはどうしてだろうか。

よくわからない感情が私の中に入り込んできたため、私は高沢の謝りを曖昧に返してしまう。

「お嬢ちゃん、よかったね」

先程のお爺さんが私に向かって話しかけてくる。私が慌てて御礼を言うと、またあの柔和な笑みを浮かべて、こっちこっちと手を振って私を隣りの席へ誘った。

私は高沢の了解も得ず、マグカップを持つとお爺さんの隣りに腰を下ろした。

手にはまだモクモクと湯気を上げたココアがある。

「熱いものが苦手でも大丈夫ですよ。実を言うとね、私も猫舌なのだよ」

そうこっそりと内緒話をするようにお爺さんは秘密を教えてくれた。

「それに、ゆっくりと気長に休めるのも、猫舌の特権だと私は思っているよ」

「熱くて飲めないからですか?」

「うん。そして、私は自分のちょうどいい温度まで下がっていく、こののんびりと待つことが好きなのかもしれないね」

スッと言われたことが自分の中に入ってくるような気がした。
今まで、猫舌だと笑われたり、飲むのが遅いと怒られたこともあったが、それすらどうでもよくなった。