黒猫前奏曲

舌がヒリヒリするため、口内で舌をいったりきたりさせ、気を紛らわそうとするが、痛みの方が強く気は紛らわされそうにない。

「そんなに熱かったか?」

私の顔を見ながら、高沢は意外そうに言う。そして、私が一番言われたくない言葉を吐いた。

「マリアは猫舌だろ?」

私が顔を歪ませたのを見ると高沢は面白そうに笑った。
誰だってからかわれて笑われるのは気分が悪い。私も同様で、高沢が笑う度に顔がふてくされてゆく。そんな時、一人だけ助け舟を出してくれた。

「これこれ、高沢さん。そんなに笑ってたら、お嬢ちゃんがかわいそうだよ」

声の主の方へ振り返るとそこには少し小太りの優しそうなお爺さんがいた。窓側に面したカウンター席にちょこんと座っている姿はなんとも愛らしい。

「これは、中山さん。うるさかったですか?申し訳ありません」

高沢が笑うのを止め、カウンター越しから中山というお爺さんに謝る。

「そう謝るのなら私ではなく、お嬢ちゃんにしてあげてくださいよ」

お爺さんは柔和に微笑み、高沢をたしなめた。

言葉使いがあまりよくない高沢が、ここまで謝るのが何か滑稽だった。そして、高沢がこの中山というお爺さんのことを敬語を使うほど尊敬しているのだということが伺えた。