諦めた表情でスクールバックから折りたたみ傘を取り出し、袋を外す。そして、ボタンをを押しながら先端へとスライドさせるとすぐに布と棒は傘へと変化した。

濡れずに早く帰りたい、と思い濡れたコンクリートの上に一歩出ようとした瞬間、

「マリアちゃん」

と後ろから呼び止められた。

名前に“ちゃん”がつく限り、決まっていいことはない。

「何か?」

くるりと振り向き、相手を見る。見覚えのない男だ。

「一緒に帰らない?」

悪いが、知らない人と帰る義理も人情も私は持ち合わせていない。

「バイトがあるので。これで失礼します」

ネクタイの色で先輩だと判断した私は、敬語で断りを入れ、踵を返す。

「バイトってあの雑貨屋さん?」

どうやら諦めの悪い男らしい。

ズカズカと人の心に侵入するのがお好きなようだ。

無視を決め込み、早歩きする私の隣りをキープしながら、ピタリと付いてくる。

幸いなことに、雨のおかげで傘を差しているため、その枝の部分だけ男と距離が取れる。いつもは嫌いな雨だが、私はその雨に感謝した。

商店街に差し掛かると屋根付きなため、傘は一旦不要となる。私は傘を畳みながら商店街を突き進む。商店街を通り過ぎるのが、私がバイトしている雑貨屋さんに一番の近道であったからだ。

商店街は買い物帰りのおば様たちが雨のためか、いつもよりせわしなく行動しているように見えた。

「ちょっと、マリアちゃん?話聞いてる?待ってよ」

以前、後を付けてくる男を無視するが、男も女にこれほどぞんざいに扱われたことがないのか、語尾が徐々にきつくなっているのがわかった。

そろそろやばいな…

私は心の中で溜め息を吐いた。

はっきり言うと、面倒なことこの上ない。