いつものようにプレハブで久志と弥生の３人で過ごしていた道成であったが、最近は心ここにあらずといった状態だった。

久志と弥生もあの雨の日以来、道成の変化に気づいていたが、本人が話さない以上声かけをすることはなかった。

そのようなことを抜かせば、穏やかな午後だった。しかし、１人の来訪者によってそれは崩れた。



―ガラッ

３人以外は特に誰もここに立ち寄らないため、不審に思い久志と弥生は入り口に視線を向けると、そこには思わぬ人物がいた。

「こんにちは」

たった一言だったが、その一言で今の今まで視線を下に向けていた道成が声の方角へ視線を向け、驚愕の瞳を相手にぶつけていた。

「出前です」

靴を脱ぎ、以前喫茶店で見た黒い制服を身につけたマリアがいた。そして、持っていた白い箱をソファに座る３人の前にあったテーブルに置く。

「あのぉ～、マリアちゃん？」

「はい？」

「これ…何？」

怖いもの知らずであり、特攻隊長の弥生が先陣を切ってマリアが置いたボックスを指差しながら尋ねる。

「出前です」

それはわかっている、とあえて口に出さずに思う３人を無視し、マリアは弥生の質問に答えた。

「『キャッツ』に出前を頼んだ記憶はないけどな、道成？」

久志から急に話題をふられ、道成は戸惑いつつも返事を返す。

「この前のお礼。誰かさんが来ないから、私が出前に行けって阿久津さんに言われたの。だから、これが出前」

道成はマリアの抽象的な会話にすぐにピンッときたが、残りの２人にはチンプンカンプンだったようだ。お互いの顔を見合わせ、肩をすくめたりとジェスチャーを行っている。

「そういうことだから。じゃあ、私はバイトに戻るね」