「その街の事はよく解らないが、近くまで送るよ」

「ありがとうございます」

彼女は深々と頭を下げ、一礼してきた。

「そういえば、名前聞いてなかったね。俺はウィルズリ‐エマーソン」

『鈴木』が嫌いなわけではないが、いつも伏せてしまう。

「私は、キャサリンです。キャサリン-ハルフォードよ」

彼女の英語は、少し訛りを感じる。迷い人というのは、どうやら本当のようだ。

月明かりに照らされた彼女のブルーの瞳に吸い込まれるかのように、ジッと見つめてしまった。

「あの、何かついていますか?」

「失礼。ところでサンロードには何しに?」

あの街に、今は人気がないと聞いている。

「それは──」

彼女の話によると、こうだ。

彼女の先祖達が、その街に魔除けの結界を仕掛けたらしい。そのおかげで、俺たちが近づけないのだ。正確に言えば、行く必要がなかったのだが。

そこの街を通過してしまえば、人間のいる街に自由に出入り出来るらしい。だが、俺たちはそんな、人間のウジャウジャいるところに行きたいとも思っていない。

今になってその子孫が、結界を解こうというのだ。

いったい何のために?

「私、ちょっと方向音痴みたいで」

かなりだよね? サンロードと此処、ゴーストタウンは北と南で正反対のはず。

どの地図を見たのかは知らないが、此処まで間違える人を、今まで見たことが無い。というか、今その話必要なわけ?

「お婆様のそのまたお婆様たちが、何を思って結界を張ったのかは知らないわ。でも、もう必要ないと思って」

「どうして?」

何を根拠にそう思っているのか、確かめてみたくなった。

「魔女とかヴァンパイアとか本当にいるのなら、そんな結界があったってとっくに現れているはずでしょ?」

それは、行く必要が無かったから、行かなかったわけで。

「この200年ずっと何も現れていないっていうじゃない?」

現れないのではない。俺たちは、この生活を邪魔だてされないように、ヒッソリと、生きてきただけだ。

「だから、それを張ったのが私のご先祖様なら、私にも結界が解けるような気がしてね」

「それは、楽しみだね。もし、結界を解き放ったと同時に奴らが現れたら?」

「そうね……」