― ♪カララン

ドアに取り付けられた小さな鐘が、店の中に響き渡る。

黒い帽子に黒いマントと、この街にそぐわない格好の、
一人の少女が顔を出した。

「相変わらず寂れた店ね」

「なんだリタ、来るなり文句をつけるなら帰ってくれ」

「アタシは客よ? お客合っての店でしょ。そんな態度取っていると、パパに言い付けちゃうんだから」

うっ、人の足元見やがって。

「折角パパが立派な洋館を用意したっていうのに!」

「俺はこのくらいで丁度いいんだ」

混雑でもしてみろ、俺一人じゃ賄えないってのが、解らないのか?

「カフェオレをお願いね♪」

「かしこまりました。」

なんていうタイミングで注文するんだか。

温めてある湯を、珈琲豆が膨らむほどにゆっくりポットに注ぐ。

そして、人肌の温度に冷ます間に鍋にミルクを沸かし、砂糖を小サジ1/2入れ軽く泡立てる。

コイツはリタ-マルガリータ

この店を用意してくれたエリックの愛娘。

魔女の見習い中だ。試験が近いくせに、こうして俺の店
(コイツにとっては、もう一つの家なのか?)
にコッソリやってくる。

「ウィルズリ、もうすぐハロウィン祭があるわよ」

カフェオレの湯気に包まれながら、丸い瞳をクルクル動かしながら、話してくる。

「もうそんな時期か?」

「やっぱり忘れてたんだ? 貴方がいないと始まらないんだからね」

「俺がいなくたって成り立っているだろ?」

この歳まで生きていると祭事とか、どうでもよくなっているのは事実だ。

「そうね、そうかもしれない。でもね、貴方に力を貸して欲しいのよ」