長年生きてきて色々な事を学んだつもりだが、俺の中から出てきた、この不思議な感覚には悩まされる。

互いに距離を計るように、固まったまま。

暫くして、先に口を開いたのは彼女であった。

「本当にいたのね?」

「あぁ、いるよ。キミが結界を解き放つ前に現れちゃったけどね」

「それは、全然考えてなかったわね」

「すまない、キレイな首を傷つけてしまって」

彼女は黙ったまま横に首を振る。

「それは……運命(さだめ)だったのかもしれないわね」

運命? 否、今のは不可抗力だ。

「ねぇ、貴方はこの後私が解き放ったら、街の人たち皆に襲いにかかるのかしら?」

「まさか。そんな事しないし、仮にその道が出来たって俺たちは、そっちには行かないさ」

ハハハッ。俺たちはそんな恐ろしい種族に思われていたのか。

「本当?」

「この目を信じられない?」

真剣な眼差しで、キャサリンのブルーの瞳に、俺の正直な気持ちを送りつける。

「分かったわ。貴方なら信じられそうね」

「ありがとう」

人間にも、こんなに心の優しい人もいるのだな。

キャサリン、君が承諾をしてくれるのなら、俺は、今直ぐ連れて行きたい。結界を解き放つなんて、どうでもいい。

「ねぇウィルズリ、結界を解き放つの手伝ってくれる?」

想いも寄らない言葉が飛んできた。

俺たちを近づけない為の魔除けを、一緒に解き放つ?

彼女の思考についてゆけない。

「そうよ。私の大事な血を分けてあげたんだから、私の恋人になってよね」

「その意味を、理解していっているのか?」

彼女は、当たり前というように力強く微笑み返し、こうも言った。

「その結界は、愛する者が揃った時でないと、解けないっていうの」

この月夜の晩に、まだ見ぬ愛する者と出会える事だけを信じて、やって来たらしい。

無茶苦茶すぎる。仮に誰も現れなかった、らどうするつもりだったのか?

「現に出会ったじゃない。まさか、その当事者にいきなり会うとは思わなかったけどね」

それは俺も思わなかったよ。