紅茶の、香りがする。

あれ、天国って、紅茶の香りなの?

それとも、私の都合のいい夢?

あれ、夢ってことは、私生きてるのかな?

よくわからないまま、目をあけると、見慣れた自分の部屋のベッドの天蓋が見えた。

なんでこんなところにいるのかな、私、公園にいたはずなのに。

自分が生きているのか死んでいるのかすらわからなかった。

そんなとき。

「織葉・・・?」

緋凰が、今まで見たこともないくらい、萎れた表情をしてそこにいた。

なんだか顔色は悪くて、いつもワックスとかを使ってつんつんしてる髪は表情と同じように萎れて見える。

「緋凰・・・?どうして・・・」

ゆっくりな私の先の言葉を待たずに。

『どさ』

緋凰が、私の上に倒れこんできて、布団ごと、抱きしめられた。

「緋凰・・・?」

自分の置かれてる状況は呑み込めなかったけど、それより先に、感情だけ動いた。

緋凰が抱きしめてくれるなんて、何年振りだろう。

すごくあったかくて、安心する。

肩を抱くとか、倒れた時に運んでくれるとか、血を取る時に抱かれるとか、そんな義務的なものは何度もあったけど。

ただこうして、緋凰の体温だけ感じれるような抱かれ方、何年振りだろう・・・。
その緋凰の暖かさに、しっかりと理解する。

やっぱり、私、ちゃんと、生きてる。

たぶん、緋凰が私のこと探してくれたんだ。

・・・ということは、緋凰、私に、怒ってる?

その考えにゆるゆる行き着いて身を固くすると、緋凰から聞こえてきたのは、今まで聞いたことがないような言葉だった。

「悪い・・・。」

「・・・・・・・・・。」

普通に聞くと、ありきたりな言葉だけど、私にはとっても珍しくて、思わず言葉を失ってしまった。

今までに緋凰がこんなにも素直に謝ってくることなんか、なかったから。

むしろ緋凰は、めったに人に謝らないから。

というか、勝手に出ていったのは私なのに、どうして緋凰が謝るんだろう。