「緋凰くん、もう部屋に入っても、大丈夫よ。」

医者の声を聞き終わるのを待たずに、織葉の部屋に飛び込んだ。

ベッドでは、織葉が真っ白な肌を熱で桃色に染めたまま、眠っていた。

公園で見つけた時よりは、楽そうにしていることがまだ救い。

「・・・たぶん、ひどい貧血状態のまま動いて、寒いところで何時間も眠っていたことで、風邪をひいたのね。肺炎にはなってないから、ご安心ください。」

医務担当の紗枝が、俺の態度に苦笑をしながら言って、後から入ってきた秋野や美詠子、その他使用人ほぼ全員が後ろに壁をなしていた。

一族者のパートナーである紗枝は、俺たちの子供の頃とかを知っているからか、なんでかよくわからないが、頭が上がらないことが多い。

「じゃあ、織葉は・・・、」

「ええ、命に別条はないわ。」

その答えに、胸をなでおろして、使用人も同じ気持ちだったらしく、安堵した表情で、それぞれの持ち場に戻っていった。



織葉を見つけてすぐ、逆井を今までにないくらい急がせて、屋敷に引き返した。

秋野と美詠子を筆頭に、笑顔で待っていた使用人たちの顔色が、一変して悪くなったことは、一生忘れられないくらい、嫌な光景だった。

すぐに一族の医務担当の紗枝が呼ばれ、織葉の診察を頼み、今、やっとそれが終ったところだった。



命に別条がないことが分かったとたん、緊張の糸が切れた。

織葉のベッドに、顔をうずめていると、

「緋凰くん?織葉ちゃんに付いていてくれるかしら?」

気を利かせたのか何なのか、紗枝が少しにやにやしながらそう言ったが、もうそれに突っ込む気力は残っていなかった。

「ああ。ありがとう紗枝」

人が素直に感謝の意を述べていると言うのに、この女、余計なこと言いやがった。

「狼になっちゃダメよ、少年。」

イラッとして眉間にしわが寄った気がしたが、俺が突っ込む気力もないのをわかってか、代わりに美詠子が紗枝にきっついジャブをかましていた。