「・・・緋凰?」

歪んだ笑みは消え、歪んだ怒りの表情になっていた。

「わかってもいねぇくせに謝るんじゃねぇよ。わかんねぇなら大人しくとられてろ。」

言い切ると私の着ていたキャミソールの肩紐を服が破れるくらいに思い切りおろして、右の肩口に顔を埋めて、私の肌を舐めた。

「・・・っひお」

ごめんなさい、と、いおうとしたのに。

『ブツッ』

自分の肩口から聞こえてきた、緋凰の歯が皮膚を破った音に、止められてしまった。

痛みはないけど、それが黙れ、と言われているようで。

―――ずるっ、ごく、ずるっ、ごく、―――

緋凰から聞こえてくるのは、体内の流れを逆らってとられる、生々しいそんな音。

「・・・は、・・・ん、」

とられるたびにぞくっとして、声が漏れるのだけは、どうしても直せない、癖。

どんどん力が抜けてきて、立っていられなくなってきた。

これは、限界の合図。

これ以上とられると、今日はもう学校には行けない。

「緋凰、も、むり・・・んっ・・・。」

いつもはこれでやめてくれるのに、今日は、なんで?やめてくれない。

「ひおう・・・。あ・・・っ、おねがい、ゆるして・・・。」

本格的に足の力が抜けて、緋凰に力の入らない手で縋りつく。

・・・そうするとしっかり抱きしめて支えてくれるのに。

ねぇ、緋凰、こんなに優しくしてくれるのに、何を怒ってるの?

「ひおう・・・ごめんね・・・。」

「・・・・・・!!」

そういうと、なぜか緋凰はすごくびっくりしたように、突然私から離れた後、私についた牙の後を舐めてきれいに直して、抱き上げてソファに寝かせてくれた。

緋凰の瞳はすでに金色からいつもの赤っぽい茶色に戻っていて、私の頭を撫でてくれた。

けど、表情は辛そうなものに変わっていて。

「しんぱい、しないで・・・?わたし、だいじょうぶだよ・・・。」

見てられなくて、だけど私が言った言葉で緋凰は顔を背けた。

「・・・今日は休め。」

それだけ言い残して、早足で部屋から出て行ってしまった。