出てきてはみたけど、実際、どこに行こうかしら。

出てきた後のことは考えてなかったのよね・・・。

重い荷物を持って歩きまわるのがきつくて、小さい頃、緋凰と何度も行った公園に行くことにして、バスに飛び乗った。

天気が曇っているせいか、公園には人は皆無。

あのころとは変っていて、遊具もへっている。

吹く風は冷たくて、血が少なくて体温が低いせいか、真冬のように寒く感じた。

公園の端のベンチに行ってそこに腰をおろし、空を仰いだ。



これから、何をして生きていこう。

何のために生きていこう。

今までは緋凰がいたから、緋凰のために生きていたけど・・・。

私はもう、緋凰にとっては何にも必要がなくなったんだから、生きていく理由がなくなっちゃった。



考えながら視界にうつるのは、味気ない春の空。

くすんでいて、鳥もいない。

自分の心のなかみたいだ、なんて、思ってしまった。



必死で生きていく必要って、あるのかな。

緋凰の事を忘れて他の人と、なんて、私にはもう無理だろう。

緋凰のこと、好きすぎるから。

だから、これから生きていく中で、絶対、緋凰の事を考えるだろう。

でも、それは辛いこと。

緋凰が幸せになっているっていうことは、私じゃないパートナーを見つけて、私の知らない誰かと一緒に御門一族を引っ張り、その人の子を成しているということ。

緋凰が幸せになれば私も幸せだけど、でも。



耳に入ってくるのは、近くの藤棚の藤が、風に揺れる音。

子守歌みたいなそれに、瞼が重くなっていく。

・・・緋凰に頭をなでられるのには劣るな。



眠い。眠りたい。

ここでこのまま寝たら、どうなるかな。

そうだ、いっこ、賭けをしよう。

このまま寝て、次に目が覚めた時。

生きていたら、ちゃんと、その先も生きていこう。

波の音を聞きながら、目を閉じる。

パパママ、もうすぐ、会えるよ?

あ、でも・・・祈咲ちゃんは、怒るかな。

なんで勝手に死ぬんだ!って。

でも、大丈夫だよ、祈咲ちゃん、私、ずっと祈咲ちゃんのこと、守ってあげるから。

そうして、意識が沈んでいった。