淑恵が死んだ旦那から受けた暴力は、彼女の体だけでなく精神(こころ)にも深い傷をつけていたようだ。

あり得ないことを言って取り乱す淑恵を見て、あたしはそう思わざるを得なかった。

「落ち着いて淑恵!」

「あの人が、あの人が…!」

「死人の仕業なんかじゃありませんよ」

それまで立ったままじっと押し黙っていた達郎が不意に口を開いた。

淑恵は達郎の存在に、たった今気付いたような表情を浮かべた。

「あなたは…?」

あたしは淑恵に達郎を紹介した。

「今回の不審火について調べてるの」

達郎は立ったまま、頭を下げた。

淑恵を見下ろすその瞳には、いつにも増して憂いの色が濃かった。

あたしは達郎が何を言い出すのか、じっと耳を傾けた。

「娘さんの発作の原因は恐らくてんかんによるものでしょう」

「てんかん…?」

あたしはハッとなった。

てんかんとは、古くから知られている疾患のひとつだ。