「この車はいつもこんな感じで停めているんですか?」

車は道路に側面を見せて停まっていた。

アパートの玄関と向かい合う形だった。

「そうですが何か?」

「ドライブが趣味なんですか?」

「なぜ分かったんですの?」

「車内にロードマップが何冊もありました」

達郎はそう言いながら立ち上がり、大家さんのもとへ歩み寄った。

「おひとつどうぞ」

なぜこのタイミングでかりんとう差し出すんだ、達郎。

「あらどうも」

しかし大家さんはなんの抵抗もなく受けとった。

…あたしの常識が間違ってるのか?

「死んだ父が車好きでしてね。あたしもその血を受け継いだみたいです」

大家さんはかりんとうを手にホホホと笑った。

「ボヤ騒ぎのせいでこのところは遠出ができませんけどね」

大家さんの言葉を受けてあたしは気になっていたことを訊いてみることにした。

「あの、ボヤを出したのは2回とも同じ部屋の方と聞きましたが…」