「そっちのオバケ?」

妙な言い回しに対し思わず訊き返すと、リカちゃんは「あ」という口の形を作った。

「なんでもないの」

あわてて首を振る彼女は明らかに動揺していた。

リカちゃんはあたしの手を放した。

「リカのうち、もう近くだから」

指さす先には古ぼけたアパートがあった。

「お姉ちゃん、リカがオバケの話をしたこと、ママには言わないでね?」

リカちゃんは顔の前で、そっと手をあわせた。

その可愛らしい仕草に、思わず頬が緩む。

「言わない。約束する」

あたしは何度もうなずいた。

「バイバイお姉ちゃん」

リカちゃんは手を振りながらアパートに向かって駆け出した。

ランドセルしょったその背中に手を振りながら、あたしはふと思った。

夏が終わり空が高くなってきたとはいえ、残暑はまだ厳しい。

昼間はまだ汗ばむ陽気が続いている。

でもなぜリカちゃんは、長袖を着ているんだろう?