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――バシャッ。
冷たい水がミュリエルの全身を濡らす。
目の前には頬を赤く腫れらせたエミリアの姿。そしてその周りにはバケツを持った使用人の姿があった。
「ずぶ濡れのあなたもキレイよ?」
そう言って意地悪そうに笑うとエミリアは再びミュリエルの頬を叩いた。
こうして何度か叩かれた頬は、痛々しく腫れていた。
「もう手が痛いわ。あとは…あなた達に任せるわよ」
そう言うエミリアの後ろから、ホウキやモップを持った使用人がミュリエルへと近づく。
逃げなければ……本能でそうわかっていても、両腕を持ち上げられ無理やり立たされたミュリエルには、すでに抵抗する力など残っていなかった。
「使用人って結構ストレス溜まるのよね…」
そう言ってにやりと笑うと、ひとりの使用人が思い切りホウキを振り上げた。
(くるッ…)
――私…死ぬのかな。
不思議と恐怖はなかった。
自分に向かって振り降りてくるホウキがまるでスローモーションのように見える中、ミュリエルはゆっくりと瞳を閉じた。
おそらくもう城にはいれないだろう。使用人の暮らしには未練などはなかった。
――ただ、もう少しだけあなたのそばにいたかった…
その時、目をつぶったミュリエルの耳に聞こえたのは、聞き覚えのある低い声だった。
「随分とすごい事をするんだな…使用人っていうのは」
――うそ……
振り上げられたホウキを後ろから掴みながら、息を切らせて上下する肩の動きに合わせて美しい金髪が揺れる。


