「鷹尾君。」

あ・・・樹里じゃないんだ。

何度目かの呼び掛けの時
寂しく感じた。


「なに?」

「イタリア語読める?」

「は?」

それほど広くない
テーブルの角を挟んでの
作業だ。

顔をあげれば、
すぐそばに
真月の顔があって。

「記号・・以外は・・
よめ・・・な・・い」

ちょっと近づけば
すぐキスできる距離で。

「じゃあ、簡単に
書いておくね。」

そんな、俺の、
心拍数の上昇を他所に、彼女は
サクサクと奏法とヒントを
訳していく。

「樹里」

やっぱ、それ、
ドキッとする。

って!!耳さわんなっ!!

ガバッと赤くなった顔を
彼女の方に向けた。

今度は何ですかっ?!


「お腹すいた。」

耳たぶをくすぐっていた
人差し指が、目の前に
泳いでいた。

「俺も腹減ったよ。」


ドキドキしながら
目の前の指を食った。