歌いだした私に合わせて、
ちょっと慌てた風に、
ギターを弾きだした
鷹尾センセに、口元が緩む。


ああ。やっぱウマイ人に
弾いてもらえるって幸せ

最後のritのタイミングも、
申し合わせたような
アイコンタクトで、
成り行きで合わせたとは
思えない。

案外、次のライブ、
うまくいくかもしれない。


「バラード、歌えんだな。
いつもアップテンポな曲とか、
シュールなのやってるから、
出来ねぇのかと思った。」

「うちのギターさんの
好みだよ。」

「うたってて面白い?
弾いてるほうは、
面白い選曲だけどさぁ。」

適当にコードを
かきならしながら、
彼はいう。

「面白いよ。
普通に歌がうまい子も、
表現力がある子も
いっぱいいるでしょ?

私は、そういうのじゃ
勝てない。

だから、曲の世界観であるとか
雰囲気を表現しようと
思ってるから。」

そういって、
ペットボトルの水を、
ノドに流し込む。

ギターが壁に立て掛けられる
軽い音がする。

「変わってんな。
普通、歌詞の意味とか、
感情とか、皆ゆってんのにな。」