話しながらも
サクサク室内を片付け
彼女は譜面をいれた
かばんを手にした。

「じゃ、ありがとう。
助かりました。」

彼女は、そういって
笑みを浮かべた。

引き止めたいのに
そうするための言葉が
でてこない。

適当な言葉が出てこず
喉がやたら乾燥した。

彼女が靴を履きおわり
ノブに手をかける。



「行くな。」


掠れた声が、やっと喉から溢れ
背後から被さるように
その体を抱きしめる。

振りほどけない様に
キツイほどの力をかけて
その肩に顔を埋めた。


「行かないでくれ。」


情けなくも
そんな言葉しか
でてこなかった。