真月の、歯切れの悪い電話を、
盗み聞くように
壁に体を押しやっていた。

零れる彼女のため息に
きっと、いい内容の電話じゃ
なかったんだと知る。


「なんか・・あった?」

俺になんて
きっと、話などしないだろう
わかってながらも
口を開いていた。


「ん?転籍、誘われててね。
ちょっと決めかねてるだけ。
大丈夫だよ。」


『大丈夫』・・・
に、全然聞こえないし。


『関わるな』って
・・・聞こえるし。

歌手のくせに
言葉の使い方
間違えてんじゃねぇよ。




そもそもコイツは
歌詞より雰囲気重視だったか。


「よくわかんないけど
もう少し、返事
待ってもらえよ。」

一般企業や会社員なんて
全然わかんないくせに
上からそう言ってしまったのは
真月が結論を出す前に
話をするチャンスが
ほしかったから。


縋るような気持ちが
語気を強めていた。


「うん。そう言おうと
思ってる。
どうせ、向こうに戻る前に
話に行こうと思ってたから。
そこまでは待ってもらう。」