秀郷が膩玖(ジキュウ)を連れ、今にも朽ち果てそうな荒れ寺の門を潜った。




 辺りには、凄まじい瘴気が漂っていたが、秀郷は、一向に気にする様子は無かった。




 奇怪な草木が生い茂る境内を進み、本堂に向かう。




 本堂も、やはり、今にも朽ち果てんばかりの有様だった。




 だが、依然として秀郷は、気にする風でもなく、本堂に入って行く。




 中は、昼間とは思えない程の闇が蟠(ワダカマ)っていた。




「和尚!

玄讖(ゲンシン)和尚はおられるか!」




 秀郷が、この荒れ寺で、ただ一人の生者であるはずの住人に呼び掛けた。




 すると、その声に応じるように、闇が人の姿を象(カタド)る。




「これはこれは城主様。

このような荒れ寺へご足労いただき、大変申し訳ございません」




 玄讖坊が、慇懃に挨拶をする。




 秀郷が、そんな玄讖坊に厳しい視線を送る。




「今日は、面白い知らせを持って来た。

もっとも、和尚はもう知っておるかも知れんがな・・・・・・」




「ほう・・・・・・。

何でございましょう?」




 玄讖坊が、何も知らぬ愚者を演じるような、呆けた表情を見せる。




「実はな・・・・・・。

吉虎らしき者を見付けたのだ」




「なんと!?」




 玄讖坊が、驚く。




 だが、どこかわざとらしくも思えた。