「凪を、お前ぇの家に置く」




 そう告げると、断十郎は、さっさと歩き出す。




「ちょ・・・・・・、ちょっと待って下さい!

それは、マズすぎるでしょ!

年頃の男女が一つ屋根の下で、なんて!」




 慌てふためく甚兵衛を、断十郎は、完璧に無視した。




 ポンと甚兵衛は肩を叩かれ、振り返る。




「よろしくね!」




 目に涙を浮かべたまま、しかし、それでも嬉しそうな笑顔を見せる凪がいた。




 凪は、一言そう言うと、断十郎を追い掛ける。




「あっ!?

ちょっと・・・・・・」




 甚兵衛が、情けない表情で、その凪を見送る。




 凪が、断十郎の腕に抱き着いた。




 断十郎は、一瞬、驚いたように凪を見たが、すぐに慈愛に満ちた笑みを零した。




 凪は、断十郎の腕に顔を埋めて、泣いていた。




 ぽつんと、あとに残された甚兵衛が、そんな二人を見る。




『やれやれじゃ。

賑やかなのが、まだ居るのか・・・・・・』




“辰巳の御神刀”がうんざりするように呟いた。




 しかし、その声に、どこか愉快そうな調子が含まれているのを、甚兵衛は、聞き逃さなかった。