「親父!」




 荒い息をしている平吾を、平治が支える。




 平吾の口からは、空気が頼りなく漏れていた。




 今にも、それが途切れてしまいそうな程、弱々しい。




 病と、今夜付けられた深く禍々しい傷のせいだ。




 背を斜めに切り裂いた傷は、夥(オビタダ)しく流れる血で、平吾にもはや時間が無いことを、周囲に知らしめていた。




「親父・・・・・・」




 平治が悲痛な面持ちで、父を見る。




 息子の表情とは対照的に、父親のほうは、弱々しいながらもしっかりと微笑んだ。




「平治・・・・・・、お前ぇの才能は、俺が一番よく知ってる」




 穏やかな口調だった。




「だがな・・・・・・」




 平吾が、弱々しい力で、平治の胸倉を掴んだ。




「だがな平治!

お前ぇのやりたかったことがこれか!

情けねえ!

悪党とつるんで、人様に迷惑かけて!

それが、格好いいことだと思ってんのか!

お前ぇは、大馬鹿野郎だ!」




 平治を睨みつけながら、震える手でげんこつを作った。




 だが、その手が緩む。




 もうそんな力が無いのか・・・・・・。




 あるいは、平治の苦悩を知っていたのか・・・・・・。




 息子を叱り付けながらも、その瞳には、とめどない愛情があった。