「それでは甚兵衛さん。

おじいちゃんをよろしく頼みます!

ちょっと口うるさいですけどね!」




 靉苒はそう言うと、一同に向かって会釈をし、くるりと背を向けた。




「あ!

靉苒さん!」




 甚兵衛が慌てて引き留める。




 靉苒が「え?」と振り返った。




「あの、もう帰るんですか?」




 甚兵衛の質問に、靉苒がこくんと頷く。




「ええ!

もう用は済みましたから。

早く帰らないと、宮司様に怒られちゃうんで!」




 そう言うと靉苒は、さももどかしい、というように、さっさと駆けて行ってしまった。




 今度は、甚兵衛が声を掛ける暇も無い。




「大丈夫でしょうか?

一人で・・・・・・」




 甚兵衛が断十郎に尋ねる。




「そうだなぁ・・・・・・。

ま、もうじき夜も明けるし、大丈夫なんじゃねえか?

何やら、ただ者じゃねえ気配も漂わせてたし」




 断十郎が、東の空を見ながら言う。




 断十郎の言う通り、東の空はもう、かなり白んできていた。




 凪が甚兵衛の隣まで寄って行く。




「残念だったわね!

あの巫女さん、引き留めることが出来なくて!」




 甚兵衛が、キョトンとした顔で凪を見た。




「何のことです?」




「別にぃ」




 凪が、つんけんした様子で、そっぽを向いた。