「ええ。

これは大切な物でしょう?

ひとまず、これのおかげで災難をしりぞけることが出来ました。

ですから、これはお返しします」




 靉苒が、再び甚兵衛をじっと見詰める。




 そして、ニコッと笑うと、手をヒラヒラと振った。




「それは、まだ返していただかなくて結構です」




 甚兵衛が、困ったような顔をする。




「しかし・・・・・・」




「甚兵衛さん。

今おっしゃいましたよね?

ひとまず、と。

その通りです。

私も花鵠國に来て分かったんですが、どうも何か善くない気が漂っています」




「え?」




 靉苒が、話の深刻さとは裏腹に、ニコッと笑う。




「だから、それ、まだまだ必要になりますよ。

きっと。

そのたびに、私が届けに来るのも面倒なんで、甚兵衛さんが持ってて下さい」




 しかし、と甚兵衛が反論しようとした。




 だが、それより先に、断十郎が口を挟む。




「甚兵衛。

せっかくだから、ありがたくお借りしときな。

その巫女殿の言う通り、どうも嫌な予感がしやがる!

この事件の裏に、何か良からぬ企みがあるような・・・な」




 断十郎が険しい表情になった。




 甚兵衛は、暫く思案していたが、やがて靉苒のほうを向いた。




「分かりました。

それでは、お言葉に甘えて、暫くの間、お借りします」




 靉苒が、ニッコリ笑いながら頷いた。