場の空気を読まない口調に戸惑いながら、甚兵衛が声のほうを向いた。




 そこには、巫女姿の靉苒が、こちらにやって来るのが見えた。




 靉苒は、にこやかな笑顔を浮かべている。




 どこに隠れていたものか、髪の毛には無数の木の葉がついていた。




 よく見ると、服も埃に塗れている。




「靉苒さん、逃げてなかったんですか?」




 靉苒が暢気な顔でヒラヒラと手を振った。




「甚兵衛さんが、ちゃんと御神刀を使えるか心配だったんで!

でも、さすがですね!

おじいちゃんの言った通りです。

ちょっと安心しました」




 おじいちゃんとは誰のことだろう、と甚兵衛は一瞬戸惑ったが、すぐにそれが御神刀のことだと思い至った。




 そして、すっと御神刀を差し出す。




「ありがとうございます。

助かりました。

御神刀のおかげで、何とか無事、事件を収めることが出来ました」




 靉苒はそう言う甚兵衛をキョトンと見詰めた。




 凪が、甚兵衛をじっと見詰める靉苒に険しい視線を送っているが、靉苒は全くそれに気付かない。




 甚兵衛から御神刀に視線を移し、靉苒が小首を傾げる。




 そして、やがてポンッと手を打った。




「ああ!

もしかして御神刀を私に返そうとしてるんですか?」




 他にどういう意味があるんでしょう、と甚兵衛は心の中で苦笑する。