しかし、彝経九郎が言葉を挟む。




「その必要はない」




「え!?」と、経輝が当惑した表情を見せた。




「しかし、我々がやらなければ、一体一体戦うしかなくなります!

それは、無理があるんじゃ?」




 彝経九郎は、経輝をちらりと見ると、塀の向こうを見た。




 屋敷を囲んでいた塀は、百葉が巨大化したせいで壊れていた。




 その時、凪があることに気が付いた。




「あれ!?

塀が壊れたのに、妖達が入って来ない!?」




「そういえば、妖気もほとんど消えているようですが・・・・・・」




 甚兵衛が、注意深く周囲の気配を探る。




 困惑気味の一同に、彝経九郎が説明した。




「百葉とやらが妖気を喰らったせいだ。

奴は自らを増強するため妖気を喰らいまくっていたからな。

元々、住民どもを妖に変化させたのも、いざという時、その妖気を喰らうためだったのだろう。

ほとんどの住民は、妖気を失っている。

僅かに残った妖も、じきに収まるだろう。

元々、自然の理外によってもたらされた変化だからな」




「住民は死にやしねえよな?」




 断十郎が心配そうに言う。




「さあな。

だが恐らくは大丈夫だろう。

せいぜい、上っ面が妖になった、という程度だろうからな。

ここに居た鬼のように、本質まで変わっていれば、存在そのものが喰われただろうが」




 彝経九郎の言葉を聞き、断十郎はとりあえずホッとした。