甚兵衛が焦りを覚える。




 百葉の攻撃は、もはや見境がない。




 甚兵衛は自分を守ることで精一杯だった。




 身を守りながら、ちらちらと断十郎達のほうを気にする。




 断十郎は、凪をかばいながら、懸命に刀を振るい、百葉の攻撃をしのいでいた。




 そこに駆け付けられない自分が、甚兵衛には歯痒かった。




 断十郎も“御使い”だ。




 しかし、その異能は、軽々しく使うべきものではなかった。




 そのため断十郎は異能を使わない。




 けれど、そのせいで、断十郎は著しい苦境に陥っていた。




 そのことに、気が気でない甚兵衛は、その時、隙を作ってしまった。




「甚兵衛!」




 凪が悲鳴を上げた。




 甚兵衛の隙をついて、百葉が腕を叩き付ける。




 甚兵衛は、百葉の攻撃を、辛うじてかわし、反射的に凪のほうを見た。




 凪が心配そうにこちらを見ている。




 そして、断十郎もこちらを見ていた。




 それを見て、甚兵衛が声を張り上げようとした。




 断十郎は、甚兵衛のほうに気を取られるべきではなかったのだ。




 甚兵衛の目に、断十郎に迫り行く百葉の腕が見えた。