甚兵衛は、正直なところ、立ち往生していた。




 鼠の激流のただ中に突っ立っているような状況だ。




 鼠の数が、あまりにも多過ぎる。




 これでは、甚兵衛がいくら持てる力の全てを御神刀に注ぎ込んでも、とてもではないが、どうすることも出来そうにない。




 かといって、甚兵衛は、凪や断十郎がこの場から離れ、安全な所に行くまで、ここに留まり鼠達の足止めをしたかった。




『何を弱気になっておる?』




 甚兵衛の頭の中に、老人の声がする。




 この御神刀は、甚兵衛の考えていることを、読み取ってしまうらしい。




『出来ぬ、と考えるのは間違いじゃ。

出来ぬとすれば、それはお主が儂を使いこなせておらぬからじゃ。

儂を使いこなすため、お主の全てを込めるのじゃ!

さすれば、この程度の妖を倒すなど、造作もないことじゃ!』




 御神刀が、甚兵衛に語りかけるが、当の甚兵衛は、自分が持てる力の全てを込めている、と信じている。




 途方に暮れた甚兵衛だったが、状況はそんな甚兵衛を待ってくれなかった。




 百葉は今や、この屋敷とほぼ同じくらいにまで巨大になっていた。




 見ようによっては、巨人が体を地面に埋めて、頭だけ出しているようにも見えた。




 その百葉が、ついに攻撃を開始する。




 鼠の腕を大きく振り上げた。




 そして、勢いよく、甚兵衛に振り下ろした。