そのまま、立ち去ろうとする。




「おい?

ちょっと待て!

どこに行くつもりだ?」




 断十郎が京允を引き留めた。




「うるせえ!

てめえにゃあ関係ねえだろうが!

こんな所に、もう居られねえから、帰るんだよ!」




「お前、何、勝手なことを言ってやがる?

そんなこと、許すわけないだろう」




「いや、我々も去ったほうがよいな」




 京允をなおも引き留めようとする断十郎を、彝経九郎が遮った。




 確かに、状況は悪化の一途を辿り、ぐずぐずとここに居るのは危険になりつつあった。




「ちょっと待って!

甚兵衛は!?」




 凪が、心配そうに辺りを見回す。




 すると、甚兵衛は、まだ鼠の海の中に立っていた。




「ほう。

あの小僧、まだやるつもりか?」




 彝経九郎が、愉快そうに笑む。




「なっ!?

そんなの無茶だ!

ここは一旦、引くべきだ!」




 経輝のまともな意見を、彝経九郎が肯定し否定する。




「確かにそうだが、そうではないかも知れん!」




 一同の怪訝そうな視線が、彝経九郎に集中する。




「あの刀が俺の思っている通りの代物で、あの小僧がそれを使いこなせれば、あるいはもしや・・・・・・」




 彝経九郎が、甚兵衛の手にある刀を見ていた。




 その様子は、あまりにも真剣で、緊張感さえ漂わせていた。