それは、甚兵衛にとって未知の領域を経験するのに等しかった。




 百葉は、右肩から脇腹にかけて吹っ飛ばされていたが、それでも生きている。




 甚兵衛が意を決し、百葉との間合いを詰める。




「くっ!」




 百葉がたじろぎ、慌てて間合いを空けようとしたが、甚兵衛は自分の間合いから逃がさない。




 すぐさま間合いを詰めて、雷の刃を一閃させた。




 またしても、百葉の体が弾け飛んだ。




 かに見えた。




「むっ!?」




 甚兵衛が、異様な手応えに眉をひそめる。




 百葉は首だけになり、体はどこかに四散していた。




 首だけの百葉が甚兵衛を忌ま忌ましそうに睨む。




「よもや、人間ごときがここまでやろうとは!

だが、その程度で儂に勝てると思うな!」




 百葉がニヤリと笑う。




 甚兵衛がハッとした。




 百葉の体は消え去ったのではない。




「これは・・・・・・、鼠!?」




 百葉の首の周りには、夥しい数の鼠が居た。




 しかも、それが、屋敷の塀の外からも続々と集まり出した。




「甚兵衛!?

なんか、外の様子が変だよ!?

妖達が!?」




 凪が、混乱した様子で叫ぶ。




 塀の向こうでは、屋敷を取り囲んでいる妖達が、いきなりバタバタと倒れ始めた。