場違いな程、暢気な声に、警戒するよりむしろ、皆は訝るような顔になった。




 皆の視線の先には、巫女がいた。




「あなたは、確か鷲見嵜神社の靉苒(アイゼン)さん!」




 甚兵衛が、意外な人物の登場に当惑する。




 靉苒は状況が見えていないのかと思ってしまう程、何食わぬ顔で姿を現した。




 そして、コホンと咳ばらいを一つすると、甚兵衛のほうを向いた。




「さて甚兵衛さん。

お困りのようですね。

でも大丈夫」




 靉苒は、周りの空気など全く意に介さず、マイペースで話を進める。




 しかも、やや芝居がかっている。




「じゃ〜〜ん!

この御神刀をお貸ししましょう!」




 靉苒の様子は、どこまで本気か分からないような程、緊張感が無かったが、今は紛れも無く緊張すべき状況だ。




 そのため甚兵衛は、素早く思案を巡らせた。




 もっとも、この状況において答はハナから決まっている。




 甚兵衛の思案は、それを確認しただけだった。




「お願いします」




 甚兵衛の答を受けて、靉苒が頷く。




「よろしい。

では、この“辰巳の御神刀”を甚兵衛殿・・・・・・。

貴方にお授けしましょう」




 その口調は、相変わらず芝居がかった言い回しをしていたが、不思議とその雰囲気は神々しく感じられた。