まるで、花鶏の唇を奪うのでは、と思うが如く、鏘緋が口を近付け囁く。




 異能という言葉に、花鶏が一瞬だけ表情を強張らせた。




 しかし、何も言うことはせず、鏘緋の要求通り異能を発動させた。




 花鶏の体から怪しい気が溢れ出す。




 それを確認すると、鏘緋が満足そうに微笑んだ。




「これで、妖達がやってくるわね」




 花鶏の異能は、妖を呼び寄せることだった。




 今では意思の力で、ある程度は異能を操ることが出来るようになった。




 だが、元々、花鶏の異能は、本人の意思に関係なく絶えず発動されてしまうのだ。




 そのため今までは、花鶏の行く先々で妖を招き寄せてしまっていた。




 花鶏は、自分のこの異能を、呪いのように感じ、忌み嫌っていた。




 冷ややかな表情をしている花鶏に、鏘緋が肢体を絡ませていく。




 花鶏の頬に舌を這わせる。




 着物の合わせ目から手を入れ、花鶏の素肌を撫で回した。




「やめて」




 能面のような表情の花鶏が、凍てつきそうな冷たい声で言った。




 鏘緋は、そんな花鶏を愉快そうに見た。