花鵠城下の一画、《大木屋》の裏口近くに女の影が二つあった。




 今の花鵠城下の状況で、夜出歩くなど、男でもありえない。




 女の一人が、皮肉るような口調で言った。




「悪いわね、花鶏(アトリ)。

仕事が忙しい時間だというのに、こんな所までつきあわせて」




 女は、忍装束を着ている。




 鏘緋(ショウヒ)だった。




 花鶏のほうは、遊女をやっている。




 だが、今夜の装いは、質素かつ地味だった




 本来ならばこの時間帯は仕事の真っ最中だ。




 そのため、普段は艶やかな着物を身に纏っている。




 しかし、昨今の情勢では客足が遠退くのも仕方のないことだった。




 鏘緋は、それを承知で皮肉っていたのだ。




 そもそも、花鵠城下の今の状態は、鏘緋が暗躍して招いたものだ。




 花鶏もそのことは知っている。




 花鶏は、鏘緋の皮肉を無視した。




 そんな花鶏を鏘緋が愉快そうに見る。




「そんな怖い顔しないで」




 鏘緋がからかうような笑みを浮かべながら、花鶏の白い頬をなまめかしく指でなぞる。




 それに対しても、花鶏は能面のように表情を消し、無視した。




「さあ・・・・・・。

貴女の異能を発動してちょうだい」