「小僧、貴様の頑張りに敬意を表して良いことを教えてやろう」




 甚兵衛が、怪訝そうに彝経九郎を見る。




「今晩、《大木屋》という商家に行ってみるがよい。

貴様の捜している連中に会えるかも知れんぞ!」




「えっ!?

まさか、それは!?」




 彝経九郎が、愉快そうに笑いながら、夜の闇に消えていく。




 甚兵衛は、彝経九郎に軽く会釈をした。




 ふと、なぜか気になり、自らの忍者刀を見た。




 その目が見開かれ、甚兵衛は驚愕した。




 小さいものだが、刀にヒビが入っていた。




「バカな!?

彝経九郎の一振りは、炎をも断つというのか!?」




 甚兵衛が彝経九郎と斬り結んだのは、異能で刃を炎に変えた一度きりだ。




 その時、彝経九郎が炎を断たなければ、甚兵衛の刀にヒビが入るはずもなかった。




「さすが・・・・・・。

噂に違わぬ屏山の大天狗ですね・・・・・・」




 甚兵衛は、呆然と、彝経九郎が消えていった闇を見詰めていた。