花鵠國では、さすがにこの頃になると、豪商達は用心棒を雇い、強盗団に対処しようとする者が現れだした。




 そして、それは瞬く間に、商人の間に広まっていく。




 とは言え、まだ中堅クラスの商人達は、楽天的だった。




 むしろ、他人事のように捉え、商売を大きくするチャンスと考える者が多かった。




 豪商達が用心棒を雇うのは、役人がアテにならないという現実があったせいもある。




 どういうわけか、役人達の多くが例の流行り病に罹り、花鵠城下の治安は著しく低下していたのだ。




 夜が更けると、例の強盗団を模倣した新たな強盗団が、いくつも現れ、城下を横行するようになっていた。




 次第に、花鵠城下の夜は、恐怖が蔓延するようになっていった。




 そんな中、本家である平治達は、とある中堅の商家を標的に定め、今夜も襲撃していた。




 ここのところ、ほぼ毎夜、強盗をしていた。




 平治には、京允達が、暴走しだしたように思えてならなかった。




 断末魔の悲鳴を聞きながら、平治はそのことに危惧を覚え始めていた。




 平治はまだ、鬼に変化することは出来ない。




 あれから何度も例の煙管を吸っていたが、平治には合わないのか、気分が悪くなるだけで、いっこうに鬼に変化する兆しが無かった。