甚兵衛は、誰かに呼ばれた気がして、夜中に目を覚ました。




 そのまま、まんじりともせず、周囲の気配を探る。




 すやすやという、凪の寝息が聞こえるだけだ。




「夢の中で聞いたのか?」




 甚兵衛がぽつりと呟いた。




 その声を聞いたのが、夢か現(ウツツ)か、甚兵衛には区別がつかなかった。




 しかし、その声に心当たりはない。




 夢ならば、誰か見知った人の声がしそうなものだが・・・・・・。




 甚兵衛を呼んだ声は、聞いたこともない老爺のものだったのだ。




 甚兵衛には、それが不思議だった。




 暫く、耳をすましてみるが、もう聞こえない。




「夢・・・・・・だったのか」




 甚兵衛はそっと呟き、再び寝入った。